
「技術・人文知識・国際業務」ビザ完全ガイド:外国人材活用の基礎知識
技人国ビザとは
「技術・人文知識・国際業務」(通称「技人国」)は、日本の在留資格の一つで、外国人が専門的な知識や技能を活かして日本の企業や団体で就労するための資格です。2015年の入管法改正により、それまで別々に存在していた「技術」「人文知識・国際業務」が統合され、幅広い職種を包括する形となりました。
この在留資格は、日本企業が高度な専門性を持つ外国人材を採用する際の標準的な資格として位置づけられており、グローバル人材の活用において最も重要な制度の一つです。
対象となる業務分野
技人国ビザは大きく3つのカテゴリーに分かれており、それぞれ異なる専門性を対象としています。
1. 技術分野
理学・工学・IT・建築などの自然科学分野における専門知識を活かす業務が対象です。
具体的な職種例:
- システムエンジニア、プログラマー
- 機械設計、電気設計
- 研究開発職
- 建築設計、土木設計
- 品質管理、生産技術
- データサイエンティスト
- ネットワークエンジニア
近年のIT人材不足を背景に、システムエンジニアやプログラマーとしての採用が特に増加しています。日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進において、技術分野の外国人材は不可欠な存在となっています。
2. 人文知識分野
法学・経済学・社会学・経営学・文学などの人文科学分野における専門知識を活かす業務が対象です。
具体的な職種例:
- 経理、財務、会計
- マーケティング、広報
- 人事、労務管理
- 経営企画、事業企画
- 営業(高度な専門知識を要するもの)
- コンサルタント
- 法務
特にグローバル展開を進める企業において、国際的な視点を持つ人材として高く評価されています。
3. 国際業務分野
外国語能力や異文化理解を必要とする業務が対象です。
具体的な職種例:
- 通訳、翻訳
- 海外営業、貿易業務
- 語学講師
- 海外マーケティング
- インバウンド対応業務
- グローバルカスタマーサポート
日本企業の海外展開やインバウンド需要の増加に伴い、国際業務分野の需要も高まっています。
資格取得の要件
技人国ビザを取得するには、いくつかの要件を満たす必要があります。
1. 学歴要件
基本要件:
- 大学卒業(学士以上)
- 日本の専門学校卒業(専門士または高度専門士)
重要なポイント: 専攻分野と従事する業務内容に関連性があることが求められます。例えば、情報工学を専攻した人がシステムエンジニアとして働く場合は問題ありませんが、まったく関連のない業務に従事することは認められません。
ただし、経営学など幅広い分野に適用できる専攻や、国際業務のように語学力そのものが専門性とみなされる場合は、比較的柔軟に判断されます。
2. 実務経験要件
学歴要件を満たさない場合でも、実務経験により代替することが可能です。
必要な実務経験:
- 技術・人文知識分野:10年以上の実務経験
- 国際業務分野(通訳・翻訳・語学指導):3年以上の実務経験
実務経験は、海外での経験も含まれます。ただし、その経験を証明する書類(在職証明書、業務内容を示す資料など)の提出が必要です。
3. 雇用契約要件
日本国内の企業や団体との間で正式な雇用契約が締結されていることが必要です。
雇用契約の内容:
- 雇用期間が明確であること
- 業務内容が技人国の対象業務に該当すること
- 勤務地が明示されていること
- 雇用形態(正社員、契約社員など)が明確であること
派遣契約や業務委託契約でも可能な場合がありますが、より慎重な審査が行われます。
4. 報酬要件
日本人が同様の業務に従事する場合と同等以上の給与水準であることが求められます。これは外国人労働者の権利保護と、日本人労働者の雇用を守るための重要な要件です。
目安となる年収: 地域や業種により異なりますが、一般的には年収300万円以上が一つの目安とされています。ただし、東京などの大都市圏では、生活費を考慮してより高い水準が求められることもあります。
在留期間と更新
技人国ビザの在留期間は、申請時の状況に応じて以下のいずれかが付与されます。
在留期間の種類:
- 5年
- 3年
- 1年
- 3か月または4か月(特殊なケース)
初回申請では1年が付与されることが多く、更新を重ねることで3年、5年と長期化していきます。在留期間の更新には、以下の要件が求められます。
更新の要件:
- 雇用契約が継続していること
- 適正な在留活動を行っていること
- 税金や社会保険料の納付に問題がないこと
- 法律違反がないこと
更新は在留期間満了の3か月前から申請可能です。余裕を持った申請が推奨されます。
就労範囲と制限
技人国ビザは、雇用契約に基づく専門業務のみが認められており、単純労働は許可されていません。
認められる業務
専門的な知識や技能を要する業務であり、大学等で学んだ知識を活かせる業務に限定されます。
認められない業務
単純労働とみなされる業務例:
- 工場での単純作業
- レストランでの配膳や皿洗い
- コンビニでのレジ業務
- 建設現場での単純作業
- 清掃業務
ただし、専門業務に付随する範囲であれば、一部の単純作業も認められることがあります。例えば、店舗マネージャーが時折レジ業務を行うことなどは問題ありません。
資格外活動許可
在留資格外活動許可を取得すれば、本業以外の副業やアルバイトも可能です。ただし、週28時間以内という制限があります。これにより、語学講師として働きながら翻訳の副業を行うなど、複数の収入源を持つことができます。
特徴とメリット
技人国ビザには、他の在留資格と比較して多くのメリットがあります。
1. 長期的・安定的な在留が可能
更新を繰り返すことで長期滞在が可能であり、一定の要件を満たせば永住許可申請の基盤ともなります。一般的には、継続して10年以上日本に在留し、そのうち5年以上就労していれば永住申請が可能です。
2. 家族帯同が可能
配偶者や子ども(未成年・未婚)を帯同することができます。家族には「家族滞在」という在留資格が付与され、配偶者は資格外活動許可を取得すれば週28時間以内の就労も可能です。
3. 職務の自由度が高い
技能実習や特定技能と比較して、職務内容の自由度が高く、転職も比較的容易です。ただし、転職先の業務内容が技人国の要件を満たしている必要があります。
4. 処遇水準が高い
日本人と同等以上の給与が保証されており、社会保険なども完備されます。
5. キャリア形成に有利
専門職としての経験を積むことができ、将来的な高度専門職ビザへのステップアップも可能です。
注意点と課題
技人国ビザの申請・運用には、いくつかの注意点があります。
1. 学歴・経験と職務の関連性
学歴や経験と職務内容の関連性が厳格に審査されます。採用計画段階から、職務定義を明確にし、外国人材の専攻分野や経験との整合性を確認することが重要です。
2. 単純労働への従事リスク
単純労働とみなされる業務を行うと、在留資格取消のリスクがあります。業務内容を明確に定義し、専門性を持った業務に従事させることが必須です。
3. 転職時の注意
転職は可能ですが、新しい職務内容が技人国の要件を満たしていることが必要です。業種や職種が大きく変わる場合、在留資格変更許可申請が必要になることもあります。
転職後14日以内に入管に届出を行う義務があり、怠ると罰則の対象となります。
4. 書類準備の複雑さ
申請には多数の書類が必要であり、準備に時間がかかります。企業の登記簿謄本、決算書類、雇用契約書、業務内容説明書、卒業証明書、成績証明書など、多岐にわたる書類を揃える必要があります。
5. 審査期間
申請から許可まで、通常1〜3か月程度かかります。繁忙期にはさらに時間がかかることもあるため、余裕を持った採用計画が必要です。
企業にとっての意義
技人国ビザは、企業が国際的な人材を採用し、グローバル競争力を高めるための重要な制度です。
企業側のメリット:
- 優秀な外国人材の確保
- 多様性による組織の活性化
- グローバル展開の加速
- 多言語対応力の強化
- 新しい視点・発想の獲得
まとめ
「技術・人文知識・国際業務」ビザは、高度な専門性を活かして日本社会で長期的に活躍したい外国人にとって、最も重要な在留資格の一つです。企業にとっても、グローバル人材を活用し、国際競争力を高めるための基盤となる制度です。
適切な理解と運用により、外国人材と日本企業の双方にとってメリットのある雇用関係を構築することができます。一般社団法人ジャシボでは、技人国ビザ取得のサポートから、外国人材の採用支援まで、総合的なサービスを提供しています。外国人材の活用をお考えの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。